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ドラゴンであるノージスが、怖々とした様子で3歳の杏子に話し掛けると、杏子はまたもや泣きそうな顔で、ノージスに問い掛ける。
「どうして、お母さんと、お父さんに会えないの?」
「死」を理解できない杏子は、ノージスに涙で濡れた目を向ける。
ノージスは、どう説明すれば良いのか分からず「それは……」と口ごもってしまう。
すると、トウヤが口を挟んだ。
「杏子。杏子のお父さんとお母さんは、遠くに行ってしまったんだ」
「じゃあ、杏子も行く!」
「行けない。杏子が、もっともっと大きくならないと、お父さんとお母さんの居る場所には行けないんだ」
「そんなの嘘だ! だって、お母さんも、お父さんも、杏子の事が『大好きだ』って言ってくれたもん!
杏子を置いて、遠くになんか行かないもん!」
トウヤの言葉を直ぐに否定する杏子に、トウヤは悲しそうな顔をみせる。
「杏子。お父さんも、お母さんも、本当なら杏子を残して行きたくなかったんだ。だけど、行かなきゃいけなくなった。
だから、ノージスが杏子の兄弟になってくれるんだよ。ノージスと、イスカと、源光が、杏子の新しい家族だよ」
いくら言葉で伝えても、幼い子供には、簡単には伝わらない。
トウヤの悲しげな顔を見て、杏子は益々泣き喚く。
「お母さん! お父さん!」
泣く杏子を、ノージスはずっと抱き締めたまま「一緒にいるから……」と言い続け、何度も杏子の背中を撫で続ける。
そんな杏子とノージスの傍に、イスカと源光が近寄っていき、2人はそっと杏子の背中に手を添えた。
「杏子は1人じゃないよ。アタイ達が、ずっと一緒に居てあげるから……」
と、イスカが杏子に語り掛ければ、源光は何度も頷き、杏子を心配そうに見つめている。
その姿を見て、レネイドが無言のままヤタへ視線を投げると、ヤタはレネイドに深々と頭を下げて、トウヤ達に「この場を離れよう」と話し掛け、杏子とノージス達をその場に残し、トウヤ達とレネイド・ヤタの一行は、静かにその場から離れて行った。
離れたトウヤ達が、ヤタに案内されて向かった先は、集落の中央付近。
集会などを開く場として作られたらしいその場所は、トウヤがジャンプしても届かないくらい高い柱に支えられた、巨大なテーブルがあった。
そのテーブルの上へ、レネイドは楽々とジャンプして跳び乗ってしまった。
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