国王からの依頼

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トウヤが押し黙ったのを、レネイドは見逃さない。 「朝霧トウヤ。お前が今話しているのは、杏子の事と言いながら、“杏子の選んだ未来を無視した話”だ。 お前は見たはずだ。 そこのレッドドラゴンが杏子を抱き締めたまま、ノージス達に問い掛けたあの場で、杏子はノージス達に手を伸ばした。それは、“杏子がノージス達を選んだ”と言うことだ。 ならば、それ以上の事をお前が心配するのは筋が違う。 それは、如何にも人間らしい、“自己満足を満たす為の、要らぬ世話”と言うものだ」 淡々とした口調で告げるレネイドに、トウヤは言い返そうとして、何も言い返せない自分に腹が立ち、眉を寄せた不機嫌な表情を見せながら、レネイドから視線を逸らす。 すると、今まで卒倒しそうな顔をしていたヤタが、トウヤを諭すように語り掛ける。 「トウヤよ。確かに、儂等ブラウンドラゴンには、人間嫌いが多い。だがそれでも、ノージス達は杏子を家族として迎え、杏子はノージス達を選んだんだ。それが事実ではないかな?」 どんな生き物にも、大きな選択をする時がある。 例え、選んだ本人が、その選択の重大さに気付いていなかったとしても、自分の意志で選択した未来に、他人が口出しして良い事にはならない。 そんな事は、トウヤも分かっているだろう。 分かっていながら、口を出さずにはいられないのがトウヤなのだから……。 「せめて……ノージス達だけでなく、他のドラゴンも、杏子と話をしてくれれば……」 尚も食い下がろうとするトウヤに、レネイドは不思議な顔をして見せた。 「朝霧。お前は、何故そこまで杏子にこだわる?」 幼い子供とは言え、杏子はトウヤの身内ではない。 それなのに、杏子の為にレネイドへ喧嘩を売り、杏子に両親の死を伝え、今もなお杏子の身を案じている。 レネイドにしてみれば、既に理解の範疇を超えてしまっているようだ。 そんなレネイドの問い掛けに、トウヤは「何でって……」とボヤきながら、心底困ったような顔で髪をかくと、思った事をそのまま口にした。 「グレンとほのかの……、同じ竜人の子を持つ父親として、自分が出来る限りのことをしてやりたい……って自己満足だよ」 トウヤがそう言うと、レネイドは目を丸くして笑い出す。 その笑い声は、今までの笑い声とは違い、楽しそうな笑い声だった。
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