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その恋する男の顔を見た瞬間、気づけば俺は封をほどいてチョコレートを口に含んでいた。
俺の想いの奔流が心というダムを決壊させた瞬間だった。
「なんのつもりだ、鶴来!? それは一流のパティシエに作らせた一流のチョコレートで、櫻様からこの栄司に──」
「うるさい!! 好きな奴がお前、他の奴に媚びる絵なんて見てられるかよ」
「それは……そう、だな。すまない、鶴来。この栄司が間違っていた。櫻様の魅力に酔って──」
「違う、違うんだ栄司。気付いちまったんだ。俺が本当に好きなのは、栄司……お前なんだって事に」
「は? 鶴来、お前何を……」
「俺は本気だ」
恋敵でありながら色々と手を貸してくれた栄司。不良を一撃ではね除ける力がある栄司。
あぁ、俺は本当にこいつが好きで好きでたまらねぇ。
「鶴来……お前の気持ちは解った。本気、なんだな?」
「あぁ。栄司。俺はお前と一生を共にしたい」
栄司の鋭く男らしい眼光を見据えて、はっきり豪語する。このはちきれんばかりの胸の鼓動が本気を俺に自覚させる。
「ならばこの栄司も正面から答えよう」
「あぁ」
「すまない。お前とは付き合えない……この栄司は、櫻様一筋なんだ。第一、正常な一般男子である西園寺栄司に同姓を愛することなどできそうにない」
「なん、だと……?」
振られた。そういえば失恋って痛みが伴うんだっけ。栄司──君に夢中になりすぎてその怖さを忘れてたよ。
俺はその場にいられず教室を出た。その矢先、優衣とバッタリ遭遇する。
「ひどいよ楓……バカ」
言いたいことは沢山あっただろう。けど、優衣は自分の気持ちを圧し殺して、それでも短くヒトコトだけ。それと一滴の雫を残して俺の前から姿を消した。
こうして俺は全てを失った。
【BAD_END】
楓「冗談だったのになぁ……最初からやり直すか」
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