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「ありがとう、御陵。助かった」
「お礼なんて。僕は只ここに導いただけだから」
「や、冗談抜きで御陵の助けがなかったら今ごろ俺は血祭りだったんじゃないかと思う」
「はは……まぁ、楓君が的確に挑発してたからね」
「だってぇ、イライラしたんだもん。俺ですら優衣にチョコレート貰ってないのに、幾ら自前とは言えその優衣からチョコレートを貰おうなんて甘いと思わない?」
「あの、ここでノロケられても」
苦笑する御陵さん。今のがノロケになるんだろうか? 恨み辛みを吐いただけだと思うんだけど。
「あ。どうして御陵はここに? 普通二年生がトイレを使うなら二階のでは?」
ここは三階だ。三階は主に三階に教室を構える三年生が利用するのが暗黙の了解になっている。
御陵は言い辛そうに俯いて。
「楓君がこの階に誘導されていくのが見えたから……余計なお世話だったよね、ごめんなさい」
謝られてしまった。するとなんだ? 御陵さんは俺を助ける為にわざわざ?
何謝らせてるの? バカなの?
「マジあいつら必死なの。幾ら待ったってこっちには渡すもんなんて残ってねーつぅのー」
「きゃはは、だよねー。チョーウケルんだけどぉー」
なんて考えてたら女生徒達の会話する声が耳に届いた。
「やば」
「隠れないと、楓君!」
出るに出れなくなって俺は御陵に手を引かれて急いで個室に戻る。
間を置かないでトイレに入ってくる団体さん。出入口周辺に留まったことから、単純に身嗜みを整えにきたか、チョコレートに飢えた男達から避難してきたかだろう。
それより、だ。
個室というのは一人用であるからして、当然スペースは狭く作られている。
只でさえ狭いそのスペースの半分以上が水洗トイレで占められているから、人が二人立って入るには密着せざるを得ないわけで。
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