きっかけは『誘拐』

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    素早く手を伸ばすと彼女の腰を抱き込む。 強引に引き寄せると あっけなく彼女は膝に乗っていた。 『な…何ッ?放しなさいよ!  放せえぇぇッ!』 背中から羽交い締めにして 力まかせに胸元へ引き寄せると、 細い身体はすんなり収まった。 『ヤダッ!さわんな馬鹿ッ!』 ジタジタと手足を振り回す彼女 の柔らかい金髪に ぽすっ、と 顎を乗っけた。 髪から甘い花の香りがする。 『…イイ抱き心地だ』 俺の言葉に彼女が硬直した。 『アレだ…ほら…  デッカイ熊の縫いぐるみ!  アレに似てんな!』 瞬間 目から火花が散る。 『あッ痛ぅ…』 頭突きを喰らった顎を撫でて 腕が揺るんだ隙に 彼女は逃げ出した。 『誰が縫いぐるみよ!変態ッ!  今度こんな事したら……』 茹で蛸が 言葉に詰まってる。 『したら…?』 痛む顎を撫でながら 先を促し てやると。 『ッ……ぶん殴る…ッ!』 そう来るか!!! 駄目だ!キレるッ! いよいよ腹を揺すって笑い始めた俺に 度肝を抜かれたか その場に固まる彼女。 笑い過ぎて…涙が止まらん! 指で涙を拭いながら言う。 言ってしまう。 『ハハッ…その細腕で…?  どうやって?…面白い!  …楽しみに しておこう』 ブルブルと握った拳を振るわせ ていた彼女は背を向け、扉を開け放したまま 足音高く去って行く。 笑いが収まらない俺は 身体を二つに折り曲げて 痛む腹筋抱えてる。 あの細い身体で、腕でどうやってぶん殴るつもりなんだ… そう考えたら ますます笑いが止まらない。 再び反り返る様に天を仰ぎ、俺は清々しく 笑い続けた。    
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