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『待て、そこの者』
ヨボヨボの爺(ジジイ)のシワガレ声が 不思議と良く響いた。
自分の事とは思わないから 止めた足を再び踏み出す。
『コラ!そこの黒髪の!』
キョロキョロ見回すと 辺りは
皆 黒っぽい髪だ。
益々 自分の事とは思わない。
ひょーいひょい、っと歩き始め
ると 三度 静止が入る。
『こりゃッ!そこで歩き回って
居る 頭一つデカイ男!
貴様の事だ!待たぬか!』
歩き回って…?…デカイ?
ぐるり、見渡すと 歩いてる奴
は俺だけで
俺と目線が同じ高さの者は一人
とて居なかった。
んッ?と首を傾げながら 爺に
向かって 自分の鼻面を指差す
と 爺は いかにも、といった面
で頷いてみせた。
『なンだよ、爺。おぶって欲し
いんかよ?』
仕方ねーな、と背中を向けて
しゃがんでやれば。
目の前に星が見えた。
脳天が割れる程 痛む。
『い…痛ってぇ!爺!何しやが
ったテメエ?』
親切な若者に何の仕打ちだ?
振り返ると 脳天に喰らったの
は 爺の杖の握りだと判った。
爺が杖の先の方を握って 再び
振りかざして居やがったから。
『うわ、止せ!止めろ!』
『誰が背負えと言うた?話があ
る、ついて来い!』
有無を言わさぬ爺の声に渋々後ろをついて行く、が。
………遅い、遅すぎる。
ヨロヨロと街の中心を目指す
爺の速度は蝸牛並みだった。
『何をしおる!この若造!』
いきなり後ろから両脇に手を入れられ 肩に乗せられた爺は 慌
てふためいていた。
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