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『ジジイ 遅せぇんだよ
運んでやっから大人しくしと
け?…で?何処行く』
ノロマ呼ばわりされた爺は 乱
暴な、落とされてはかなわん、などと しばらく呟いていたが
やがて大人しくなった。
爺の案内でたどり着いたのは
街の中心地、ひときわ大きな屋敷だった。
『デケェ家だな!』
思わず口にすると爺 耳を引っ
張りやがった。
『当たり前じゃ!領主の館ぞ?
小さい訳がなかろう』
『ふーん、何か知らねえけど…
もう降ろすぞ?俺 行くわ』
屈んで爺を降ろし 立ち上がる
と 爺の杖が俺の襟首に引っ掛
かっていた。
『まあ待て、礼に茶でも飲んで
行け?…此方へ来なされ』
磨き上げられた石の廊下をコツンコツン、爺が歩いてく。
何か知らんが、面倒臭せぇ!
ソロリ、踵を返した瞬間。
『おや?デカい図体で 臆病風
に吹かれおったか?』
せせら笑うような爺の声。
『なンだと?爺!誰に向かって
言ってやがる』
今 思えば、やッすい挑発に ま
んまと引っ掛かっちまって。
『茶ぐらい当然だな!ついでに
飯ぐらい出せや!』
…とズカズカ 館に上がり込んじまった。
薄暗い玄関の先には 吹き抜け
の光溢れるホール。
重厚な円柱、毛足の長い柔らか
な絨毯、飾られた調度品…
初めて見る物ばかり。辺りを見回すのに忙しくて
いつの間にか 爺を見失った。
まあ、いいか。
分からんかったら帰るまでだ。
しかし 扉は開かなかった。
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