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土方が去ってすぐ、総司の前に現れたのは斎藤一だった。
「これは返り血ですよ」
総司は少し前、土方に言ったことをもう一度言った。
斎藤の方はというと、子どもの嘘を容易に見破る大人のような笑いを浮かべている。
――この人に嘘はつけないな。
総司は“ばつ”が悪くなって、少しうつむき唇を引き結んだ。
バレることがわかっていても、とにかく隠し通したかったのだ。
「……血を吐いたのだろう」
総司はすぐには答えなかった。
しかしさっきとは多少事情が違った。
すでに、土方歳三という人が病の存在を知っている。
「さっき、土方さんと話しましたよ」
「……そうか。何と言っていた?」
「やれるだけやってみろと」
総司は口元に小さな笑を浮かべた。
それはいつもの、ただ無邪気に笑うのとは少し違っていた。
死ぬかもしれない。
という意識が、遠のいていく気がした。
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