土方歳三

5/5
前へ
/17ページ
次へ
. 土方が去ってすぐ、総司の前に現れたのは斎藤一だった。 「これは返り血ですよ」 総司は少し前、土方に言ったことをもう一度言った。 斎藤の方はというと、子どもの嘘を容易に見破る大人のような笑いを浮かべている。 ――この人に嘘はつけないな。 総司は“ばつ”が悪くなって、少しうつむき唇を引き結んだ。 バレることがわかっていても、とにかく隠し通したかったのだ。 「……血を吐いたのだろう」 総司はすぐには答えなかった。 しかしさっきとは多少事情が違った。 すでに、土方歳三という人が病の存在を知っている。 「さっき、土方さんと話しましたよ」 「……そうか。何と言っていた?」 「やれるだけやってみろと」 総司は口元に小さな笑を浮かべた。 それはいつもの、ただ無邪気に笑うのとは少し違っていた。 死ぬかもしれない。 という意識が、遠のいていく気がした。 .
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加