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戻ってきたのは夕方だった。
一旦、家に帰ってから、夜、再び俺たちはマックに集合。
「なんか、スッキリした」
第一にそう言うと、翼は「はぁ?」と不機嫌な声を上げた。
「結局、何もしてねーじゃん。家見てぴーぴー泣いて帰ってきただけじゃん」
「うっせ」
「おばさんには言った?」
「言った」
「どうだった?」
「泣いた」
「うわ。女泣かせ。親父似か」
「かも」
泣いた。ってなもんじゃなかった。大激怒で大号泣。母親のそんな姿を見たのは初めてだった。
黙って居なくなったのが不味かったらしい。
…って、ま、当たり前か。
「ピンポンの1つでも押してやれば良かったのに」
「向こうはもう俺は要らないんだろうよ」
「そうか?」
「当たり前なんだけど、俺、妹いるらしい」
「マジか!可愛い!?」
「知らねー。つか中学生だけど?」
「俺全然大丈夫」
「黙れよ」
「お前、も一回会いに行けよ」
「黙れよ」
くるん、と、カウンター席の丸い椅子を半回転させ、慌ただしく動く店内を見渡した。
休みだからか、忙しそうだ。
「翼は美容専門学校だっけ?」
「おぅ」
「輪は大学、理系のクセに文学部だし……琢磨はプロサッカー」
「光樹は浪人」
「でも医学部志望だろ?」
「まぁな。で、お前は?」
―ゴーセイジャー?―
―で、あんたは?―
―辞めるなよ!―
「役者」
「おー!来た!やっぱり」
ポロッと、口から零れたのは無意識だったかもしれない。
翼が嬉しそうにバシバシ俺の背中を叩く。
「名を上げて、見せつけてやれ!」
「見せつける?」
「お前を捨てた事に後悔させてやれ!あ、本名でいけよ?相馬 好孝でやらなきゃ意味ねぇぞ?」
「……大袈裟な」
って、言ったけれど、
『名を上げて後悔させてやる』
沸々と、少し、その気になってきている自分がいた。
俺が役者で名を上げたなら、
テメェから会いに来い。
今度は俺が捨ててやる。
「こんな田舎に閉じ籠ってないで、都会に行け都会に」
「…ってなると、また母さん泣くかもなぁ…」
「女泣かせは遺伝だから仕方ねぇ」
「黙れよ」
やろう。
やってみよう。
やりたいから、
やるのだ。
……でも、あの人を1人残して行くのは少し心配。
「母さん、再婚すればいいのに」
「お前はどこまでマザコンなんだ」
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