五線紙

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「よっしー!まってよ!」 パキン!と、割れる音がした。 氷だ。水溜りが凍った物が、今、踏まれた。 何となく、身に覚えのある呼ばれ方に反応して後ろを振り向くと、この寒い中、半ズボンの小学生くらいの少年が、耳と頬を真っ赤にさせてこちらに走って向かっていた。 「おっせーよ!」 ぜえぜえ、と、息を切らしながら答えたのは、もう少し先を走っている少年。 青い耳当てと、揃いの手袋をして、後ろを走っている少年に 「はやく来い!」 と両手でアピール。 「まって…。」 「だいちゃんはやく!」 「そんなにいそがなくてもいいんじゃないの?」 「だって、いっくんがさきにいってるっていってたもん!」 よっしーはどうやら先を急ぎたいらしい。ぴょんぴょんと両足で飛び跳ねながら、だいちゃんが追いつくのを待っている。だいちゃんはもうバテバテだ。あまり運動が得意ではないらしい。見た目もよっしーに比べて少しぽっちゃりしている。 「いくよだいちゃん!もうちょっと!」 「おし!」 だいちゃんが追いついたのを確認すると、よっしーはまた走り出す。 そのんなよっしーに刺激されたのか、だいちゃんもまた、気合を入れて走り出した。 どこまで行くのかは分からないけれど、彼らはどんどんと坂を駆け上がっていく。 元気だなぁ。 遠ざかる背中を見送りながら、俺は、今出来た小さな足跡を辿るように、再び足を進めた。 時刻は朝。 別に早い時間じゃないけれど、きっとアイツはまだ寝ているだろう。 家には始発に間に合うように出たから、随分と時間が掛かってしまった。 財布にも、なかなか痛い出費だった。 でも、まぁ、いいか。 ネットから出力した地図と、自慢の勘を頼りに、少しづつ、少しづつ、俺はあの場所に向かっていた。 あの人は、どうしてるかな? 泣いてるかもしれないな。 そう思うと、少し後ろめたい気もするけれど、 そろそろ良いだろう とも思う。 もう18だ。 大人だ。 とは言わないけど。 もう、子供ではない。
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