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―――……‥‥‥‥……―――
『お前、本気?』
ガリゴリと、氷を噛み砕きながら問われた。
『何が?』
『今言った事』
『うん。…まあ。うん』
そう、曖昧に答えれば、短く整えられた眉が歪んだ。
カコン、と、軽い音を立て、空っぽになった紙コップをトレーに置きながら彼は更に問う。
『おばさんに言った?』
『いや、言わずに行く』
『言った方が良いって!』
『言ったら、きっと止められるだろ?だから言わない』
『説得すればいいじゃん』
『説得…は、出来ない』
『何で?』
『なんて言うか……理由がない』
『理由が無いのに行くのか!?』
『駄目?』
『駄目…つーか…』
『…なんつーか』と、何やらぶつぶつ言いながら、彼は短い金髪を、丁寧に黒く塗られた爪でガシガシガシと乱暴にかいた。
青いベストに緑の鞄。ついでに赤いスニーカーと、原色好きの派手な男は怒ったように口を開く。
『意味わかんね。お前何しに行くの?』
『特に』
『全然意味わかんね。お前何で行くの?』
『電車?』
『ざけんな。意味ちげぇ』
目付きの悪い、もとい、目元の涼しい切れ長の目がこちらを睨む。
それを正面から受け止めると、俺は、ニヤリと、口の端を緩く吊り上げてみせるに留めた。
それを見て、彼は諦めたように短く溜め息を吐く。
『何?お前、行って殴ったりしちゃう系?』
『や。別に』
『じゃ、何しに?マジで見に行くだけ?』
『まぁね』
『お前…なぁ…』
はぁ…と今度は大袈裟な溜め息を吐く呆れ顔の美人。…って本人に言ったら怒るから言わないけど。
『翼』
『あ?』
『お前、俺の事、どう思う?』
『はー?お前面倒くせぇ』
『どう思う?』
『あー…。あれだ』
長年の親友は、面倒臭そうに髪の毛を弄りながら、反対の手首に尖った顎を乗せ、やる気のない言葉を放つ。
『髪の毛もうちょうい切ったら男前』
『今は?』
『女』
『いやん』
『うぜー。うぜー。まじうぜー。お前超絶うぜー』
『翼が言ったしな』
超絶嫌そーな顔を向ける幼馴染みに、ふはっ、と笑いながら俺はポテトを1つ、頬張った。
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