五線紙

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高級住宅街。 そんな言葉がピッタリくる住宅街の坂道を、足を滑らせないように気をつけながらゆっくりと登る。 歩いているだけだが、雪に足を取られて思った以上に体力を使った。 思わず、ハァハァと、肩で息をする。 さっきの2人の少年は、この道を軽々と駆け上がって行った。 と、なると、運動不足かもしれない。 こう見えて、小学校の時はサッカーをやっていた。けど、なんだか性に合わなく感じて辞めた。 辞めるにしても、自分の中にちっぽけなプライドのような物はあったから、中学に上がるまでの6年間はやり通して、辞めた。 周りは強く反対したけれど、辞めた。 後悔は全くしていない。 そもそも「人に合わせて何かをやる」ってのに、向いていないのだ。 勿論、その先まで続けた連中もいる。 幼馴染みの琢磨なんかは、小さい頃からサッカー一筋。元々運動神経も良くって、ポテンシャルが常に高く、性格も良いヤツだから俺たちのクラブのキャプテンだった。 そのままサッカーをやり続け、強豪の高校に推薦で入って、来年からはプロ。 世界が違う。 そんな幼馴染みを誇らしく思う。 サッカーで食っていく。 その覚悟を、同じ歳のヤツが決めた事に尊敬する。 「俺にも出来る」と、到底思えなかった。 焦ってるのか?と、聞かれたら、 そうかもしれない。 でも、将来に不安は無い。 不安は無いけれど、地に足が着いている感覚も無い。 何となく、ボンヤリとした道を、フワフワと歩いている。 焦る必要は無いと、言い聞かせながら、蜃気楼の塔を目指している。 そんな感じ。 ……。 もう少しだ。 カシュッ、カシュッ、と、テンポよく雪を踏みしめ、俺は坂の上まで登りきった。 ほぅ…と、息を吐けば、もやっ…と、白いものが、顔の周りを緩やかに廻った。 ここが頂点。 この先、緩やかに道は降りていて、ハウスメーカーに規則正しく作られた家々が、キッチリ、ピッタリ、無駄なく並んでいる。 四角い景色を眺めながら、秋の終わりにセールで買った黒の細身のコートから、地図を取り出す。 その時、思わずコツンと指先に当たったのは、携帯電話。 電源を切ってある。 地図と一緒に、それもポケットから取り出して、一度カチリと開いた。 寝てる画面を、少し眺めてから、閉じた。 そいつをまた、ポケットにしまう。 メールか電話か、 きっと来てる。
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