五線紙

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‥‥‥……………―――――― カサッ、と、紙の捲れる音がした。 『気になるなら会いに行けばいいじゃない』 同時に、舞台の中央に立っている俺のところに、輪の声が響く。 『なんかちょっと怖かったりして』 『じゃあ会いに行かなきゃいいじゃない』 さらりと、長い髪を一つに纏めて、ごつい黒縁の眼鏡を掛けている彼女は、とても頭が良さそうに見える。 ま、実際良いけど。 社会以外は。 こう見えてバリバリ理系なのだ。 『あっさり言うなぁ』 『気の小さい男ね。どーだって良いじゃない。家族じゃないんだから』 俺には一切視線を向けず、体育館の中央に置かれたパイプ椅子に足を組んで座って、パラリと台本をめくる姿は、なかなか様になっている。将来はきっと鬼舞台監督だ。 既に鬼だけど。 『輪は気にならないんだ?』 『全く。だって関係ないもの』 『割り切るなぁ』 『だって関係ないんだもの。さ、出来た。ちょっと読んでみて』 何か書き込んでいたのは、台本の修正だったらしい。 俺は、なるべく音をたてずに舞台から飛び降りた。体育館に響く、ドタドタとした足音が嫌いなのだ。 『相変わらず、仕事熱心』 『当然』 輪から受け取った台本は何度も何度も、彼女が書き直したもの。それでもまだ、どこか納得がいかないらしい。台詞が追加されたり削除されたり ……覚えるのは俺なんですけど? 変更された部分に目を通しながら、ふと気になった事を口にした。 『そーいや輪は進学?』 『うん』 『演劇辞める?』 『辞めない』 『脚本家になる?』 『さあ』 『さあって…』 『成れる成れないなんか分からないわよ』 ツンと、まるで他人事のように喋るその口調は、昔から変わらない。 『じゃ、諦める?』 『どうしてそう短絡的かな?』 で、物凄く負けず嫌い。 『書きたいから書く。その延長で脚本家になれるなら、ラッキー以外にないわ』 『最後は運?』 『縁も大事よ』 何に逢うか。 誰とすれ違うか。 予測出来ないモノが俺たちの未来を決める。 『何か、納得いかない』 『運も実力の内、ってのはそーゆー事でしょ?それに、アンタが納得するとかしないとか、そんなモノ世間様には関係ないのよ』 ふん、と、鼻息荒く、背もたれに両肘を掛け、ふんぞり返ってパイプ椅子に腰掛け、組んだ足をぷらぷら動かす様は、花も恥じらう17の乙女にはとても見えない。 『で、アンタは?』
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