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何処かで、車のクラクションが聞こえた。
…寒。
一旦、冷静になれと言い聞かせ、一歩、一歩と下がって距離をとれば、火照った体が冷めてきた。
とん、と、軽く背中が壁に当たる。
そのままそこに背中を預けたら、肩の力が抜けた。
コツン、と、ゆっくり頭も壁にもたれて、体重も全部後ろに掛けた。足だけ突っ張ってそこに立つ。
戸建に住むってどんな感じだろ?慣れてしまえばマンションとそう変わらないのかな?その建物全部が自分の家なんて、なんだかとてもリッチだ。
そんな事を考えながら、俺はボーッと目の前にある家を見る。
ふと、
視線を下に移すと、
それが目に入った。
それは偶然だった。
もしかしたら初めから見えていたのかも知れない。けど、無意識に消していたのかも。
俺の右手、ガレージには青い車が止まっていて、その傍らには自転車も置かれていた。
銀色の、どこにでもあるような自転車。
その銀色の自転車にはステッカーが貼ってあった。
緑色のステッカーで、3桁の番号と、中学校の名前が書いてある。
その下。
マジックで直接。
辻 麗羅
つじ れいら
れいら
ガツンと頭を殴られた気がした。
今、気付いた。
馬鹿だ俺。
そうだよ。
俺だけじゃないんだ。
娘がいるのか。
馬鹿だ。
そこんとこ、何も考えてなかった。
思わず、目を背けるように、ガシュッ、と、雪を散らし、俺は右を向く。
そのまま、カシュッ、カシュッ、カシュッ、と、前へ。
ここまで歩いてきた、自分の足跡を逆さに辿る。
震えた出した手を必死に動かし、ポケットから携帯を取り出した。
カチリと開き、寝ている携帯の電源を押す。
早く。早く起きろ。
はぁ…、と、胸の浅い所から息を吐いた。
空気が乾燥していて、
冷たい空気に負けて、
鼻の奥がツンとなる。
ズッ、と、鼻を鳴らして、また、ハ、と短く息を吐いた。
段々、歩くスピードが上がり、伴って息も上がる。
体が芯から熱い。
坂の天辺まで来たとき、携帯が覚醒し、ヴーッ、と短く2回震えた。
直ぐに確認すれば、10件のメールと、20件ほどの着信。
急いであの人へリダイアル。
今、声が聞きたい。
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