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‥‥……――――――……‥‥
『思うに、お前はこっち側の人間だと思う』
冬を呼ぶ風が強い。少し厚着かと思ったけど丁度良かった。
琢磨は使い込んだサッカーボールを、ポン、とその辺に転がしながら俺にそう言った。
こっち側、の意味が分からなくて、思わず眉をしかめる。
『何だよ。こっち側って』
『だから、ヨシは多分、全部を捨てて、体1つで荒波に飛び込むタイプ』
『……自殺?』
『違うって』
そう言って、俺を見ながらにやりと笑うと、琢磨はボールを器用に足の甲に乗せた。
『ヨシは今、自分が出ていったら家におばさん1人になるから遠慮してんだろ?』
『別に、遠慮なんかしてねーし』
『あ、そ?なら俺の勘違いかも』
ポーンと、軽く蹴ったボールは、ダムッ、と空気の抜けた音をさせて、落書きだらけのコンクリートにぶつかった。
緩く転がるボールを見ながら、俺は琢磨に話しかけた。
『……いつからだっけ?』
『えぇっと、2ヶ月後にはここに居ないかな?』
『凄いな』
『いや、今からだろ』
『怖くないか?』
『何が?』
『……その……これで行こうと決める事』
『怖いとか怖くないとかじゃなくて、俺にはコレ以外ないんだ』
あぁ…成る程。
『……何か分かった』
『何が?』
『琢磨と輪が付き合ってる理由』
そう、言った途端、精悍な顔がカチンと固まり、みるみるうちに赤くなった。
ウケる。
『……え?何?アイツ何か言ってた?何?何言ってた?』
『や、別に』
『何だよ。超絶怖ぇじゃんかよ』
やっぱり、尻に敷かれてるのか。
焦り気味にオロオロする、未来のプロサッカー選手を見て、逆に俺は落ち着いた。
ニヤリと意味もなく意味深に笑うと、『それじゃ』と言って自転車に跨がり、堤防を後にしてやった。
何て事ない。
俺もアイツもそう変わらない。
ただ、アイツの方が少し長くサッカーやってたってだけだ。
アイツとは何か似てるモノがあると思ってた。琢磨もそう感じてくれていたのは、少し励みになる。
『ヨシ!辞めるなよ!』
琢磨の声が夜に響く。
近所迷惑だって。
俺は後ろを見ずに右手を上げた。
こーゆーの、一回やってみたかったんだ。
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