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私はビクリと肩を大きく揺らし俯いて彼の言葉を待った。だが彼は何も言わない。しばらくの間、気まずい沈黙が放課後の教室に流れた。
「あ、あの…何でしょうか?」
沈黙に耐えきれなくなった私は意を決して口を開いた。すると彼はわざとらしく大きな溜め息を吐いて私に言い放った。
「お前を見てると苛々すんだよ」
「えっ…?」
予想外の言葉に私は何も言い返すことが出来なかった。いや、言い返せなかったのではない。何も言えなかったのだ。
「嫌ならはっきり断れよ。だからいつもいつも押し付けられるんだろうが」
チッと舌打ちをして言った彼は自分の机の中をあさり、CDを取り出すと鞄の中にしまった。どうやら忘れ物を取りに来たらしい。私は何だか申し訳なくなり、小さくごめんなさいと謝った。
私がしょんぼり落ち込んでいると彼は呆れたようにまた溜め息を吐き、掃除用具の入っているロッカーからほうきを取出し教室の床を掃き始めた。
「あ、あの…」
彼の突然の行動に私が呆然としていると、彼は少し照れ臭そうに頭をかきながら言った。
「ほら…委員会があるんだろ?…仕方ねぇから手伝ってやる」
「…ありがとうございます」
素直にお礼を言うと、別に…と彼は小さく呟き顔を逸らしてしまった。彼の頬がほんのり赤く見えたのはきっと夕日のせいなのだろう。
「…あれ?」
私はふと先程の彼の言葉を思い出す。彼は私がいつも1人で掃除をしている事をまるで知っているかのような口振りだった。
1年生の頃は違うクラスだったし、2年生になって同じクラスになってからまだ日も浅い。話をするのも今日が初めてのはずだ。それなのにどうして彼は知っているのだろうか。
「おい、早く終わらせるぞ。俺もこれからバイトがあるんだよ」
「は、はい!!」
考え事をしていたせいか、どうやらいつの間にか手が止まってしまっていたらしい。彼に促され、急いで教室の床を掃いていく。
手を動かしながらこっそり彼を盗み見てみると、急いでいる割りには丁寧に床を掃いていた。少し驚いたが、何だか嬉しくなってつい笑みがこぼれた。彼が見ていた事にも気付かずに。
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