01-A

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春 庭には桜が咲き誇り 空には澄んだ青と 白のコントラスト あたりには この季節に向けて 日に日に暖かくなっていた 風が爽やかに吹く まさしく春である。 そんな春を確認するかのように 一人の少女が呟く 「春ね」 年齢は十代後ろくらいだろうか あどけなさの残る顔には どこか懍とした部分があり 肩まではあるだろう黒髪を 赤い大きなリボンで ポニーテールに結い 脇から二の腕をさらけ出した 紅白の巫女装束で 縁側に佇む姿は純粋に綺麗だった 彼女を手にした湯飲みを口に付け 出がらしのお茶をすする 目の前の桜を肴に飲む 粗茶を味わいながら またぽつりと 「春ねぇ」 思わず声にだす 「ああ、紛れもなく春だなぁ」 本日のお茶請けである三色ダンゴを 紅白の少女とはさむような形で 寝転がっている金髪の少女が応える 紅白の少女と同じくらいの年齢だろう どこかあどけなさを感じる表情 が紅白の少女のそれとは違い いたずらっ子のような そんなあどけなさ 白いブラウスに黒いワンピース 腰にリボンが特徴の レースのついた白い前掛けを 身につけている 自分の腕を枕にし 背中ぐらいまである ウェーブがかった 美しいブロンドヘアを 古びた木目の床に投げ出して 天井を仰ぐ彼女は 紅白の少女とは違った 別の美しさがあった 黒白の少女が隣人の少女に声をかける 「なぁ、霊夢」 霊夢と呼ばれた紅白の少女は 桜をぼんやりながめながから 「なに、魔理沙」 と黒白の隣人に応える 魔理沙と呼ばれた黒白の隣人は 視線を天井から桜にうつし 「春だよなー」 「ええ、紛れもなく春ね」 「春といえば桜だよな」 「ええ、春といえば桜ね」 こんな会話が何度か繰り返され 二人の間に穏やかな静けさが訪れる その沈黙を破るように 魔理沙が霊夢に話しかける 「…霊夢、世の中にはな花よりダンゴって言葉があってだな」 「ダンゴのおかわりは無いわよ」 二人の間の皿には 4本の竹串だけが転がっていた。
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