‐ドア‐

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「サンライズ…確かに雨とは無縁ですね」 彼女はグラスのふちに飾ったオレンジを頬張った。 「テキーラサンライズ… 朝焼けの空、赤いシロップを太陽に模したカクテルです。 止まない雨はないので、雨が止んだら綺麗な朝焼けが見れると思い作らせていただきました」 彼女はへぇー、という表情を浮かべカクテルを一口飲んだ。 「美味しい!とっても飲みやすいですね! テキーラと聞いた時は正直冷や冷やしましたよ」 「お口に合ったようで… 少しだけお酒の量を減らしてお出しして良かったです。」 通常レシピはテキーラ45mlだが、始めてお酒を作る女性のお客様ということと、憂さ晴らしに飲みに出たと言うことは普段あまりお酒を飲まないであろうと考え、30mlに変更したのだ。 「実は私、あんまりお酒飲んだことがなくて… でもこのお店なら安心かも!」 グラスの底に微かに残るシロップをマドラーで混ぜながら彼女は嬉しそうに言った。 「そう言われてしまうと嬉しいですが、少しだけプレッシャーな気がします… そうだ、音楽変えてもよろしいですか?」 「ふふふ、いいですよ」 嬉しい一言をもらい、自分が少し赤らんでいるのがわかり、慌てて音楽を変えるため後ろを向いた。 (カランカラン) 重厚なドアが再び綺麗な鐘の音を鳴らした。 「いらっしゃいませ。 こちらの御席へどうぞ」
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