‐ドア‐

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来店したのは男性と女性のカップルで、男性の方は30代前半、女性の方は20代前半に見受けられる。 付き合って長いのだろうか、お互いがお互いを自然に気遣っているように感じた。 「あの、まだ大丈夫でしょうか?」 「はい。 どうぞお好きな席へ」 男性は安堵の表情を浮かべ女性の方を振り返った。 「大丈夫だってさ!よかったぁ」 どうやら始発までやっているお店が中々なかったようだ。 「ねぇねぇ、私BARなんて初めてなんだけど…どうしよ…」 女性は不安そうに男性をみた。 「んー、実は俺も初めてなんだ…」 男性も女性も不安そうにソワソワしている。 「ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。 私一人でやっている小さなお店ですから。 それにどんなことにも"初めて"は付き物ですから。」 緊張がほぐれないようで二人は"ごもっとも"とでも言うような表情で頷いている。 「お飲みものは何かお決まりですか?」 私が問い掛けると慌ててメニューを手に取りページをめくった。 「まだお決まりではないようでしたら私から一つ提案がありまして。 どうでしょう? お二人のBARデビューの記念に何かカクテルをお作りしてもよろしいでしょうか?」 二人はお互いに見合わせ、何かを確認し、再びこちらを向き、 「是非、お願いします!」 と頷いた。 「お二人ともカクテルはよくお飲みになりますか?」 「いえ…でも昔接待で言ったお店のジン?のお酒がとてもおいしかったのを覚えています。 ジン…トニックだったかな?」 (ジントニック…オーソドックスなものがきたな…) ジントニックはBARの顔と言われるカクテルで、通の間ではジントニックで店の評判がきまるとまで言われています。 まぁ師匠の受け売りだったので信憑性には欠けますが… 「なるほど…ではそちらを特別なレシピでお作りしましょう」 「あ!じゃあ私もそれでお願いします!」 (女性の方も同じか…少し差を付けたいな) 「かしこまりました。 では2つのジントニックのジンの種類を変えてお出ししますね。 同じジントニックでも味や風味が違うと言うのを楽しめるのはBARぐらいですから」 私が笑いかけると少し緊張が解けたのか、2人で何か話し笑っていた。
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