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どうやら雪は眼前に止んだようだな。 安楽椅子に座ったまま、後方の縄で縛られた男を見る。 先ほどとは全くの逆の立場となった。ざまあみろってんだ。 男が目を覚ます。 「うう。あれ?なんで俺はすっかり身動きとれなくなって・・・ああ、そうか」 安楽椅子に寄りかかり暖炉の温もりを感じている俺を見て全て思い出したらしい。 それはそうと、この北の奥地は冬になると外に出ることが困難になるし、外に出る動機も失せるんだが。屋内で趣く手軽な趣味を持ち合わせていない俺は毎年この季節になると暇を持て余している。 だから、こいつの名を聞くのも一興だな、と思ったのである。なにより、こいつにあだ名をつけるのも面倒になってきた。 「名は?」 「ぶはっ!さっきとはまるで逆になっちまったな!まあしょうがねぇ、俺の行いの賜物だ。俺の名は」 【シルフ=ドラフト】と名乗ったこいつは、不敵な笑みを浮かべながら上体を起こした。 この余裕はどこからくるのだろう。俺が何もしないとでも思っているのか、シルフはそのまま当たり前のように言葉を紡いでいく。 「なかなかの防犯だな、そのマッチ箱。地の利を生かし、人の死角を突いてる。俺好みだぜ」 完全無欠と謳っているだけに、その言葉は素直にうれしかった。
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