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『白銀の茨』。 魔力を持つ植物、魔樹がひしめき合うこの土地は不定期に地形を変える。 魔樹が移動するのだ。 人知を超えたこの森で息絶えた人間は数知れず、数を数えようにもそれすら敵わない。 ちなみに、この地での自殺者数は『オリーズ王国』で随一。 その理由は、年中雪に覆われ氷点下を維持するこの地で死ぬと生まれ変われるという言い伝えに依存する。死体という生モノがそのままの形を維持する自然の冷蔵庫。 別名『時越えの森』。 その中を歩く、世界の嫌われ者と強盗詐欺師。 「おいお前までここに入っちまったら、帰れなくなっちまうぞ。それとも何か、時を越えたい訳でもあるのか」 「黙って歩け」 「へいへい」 俺は天涯孤独となった次の日、親父達が俺を預けてくれた定食屋の主人に売られた。 その主人を恨んではいない。あの時、親父やその家族に掛けられていた懸賞金の額を考えれば、妥当な判断だろう。 それに悪いのは定食屋の主人ではなく、世界そのもの、時代だってことはさすがの俺だって心得てるさ。 親父達と別れて直ぐまた追われる身となった俺は北の大地のそのまた奥地に逃げ込んだ。 死ぬつもりだったんだ。 この『白銀の茨』で。 時を越え生まれ変われば、時代が変わり『英雄の血』とか『魔王の血』なんてもんが無くなってるかもなんて考えたからな。 齢10才だったこと考えればなんら不思議じゃないだろう?サンタクロースだってまだ信じてたし。 でも、『白銀の茨』で俺は死ねなかった。 生い茂る魔樹により、道に迷うどころか、魔樹達は道を作りだして俺を現在の自宅に案内した。 そのまま俺はそこで10年暮らし今に至る。 幸い『白銀の茨』には追っ手も近づけず、ましてや、10才の子どもが入るわけもなく、入ったとしても生きていられる訳がないと考えたのだろう。 「ここら辺でいいな。ここから2時間程南下すれば村に着く。そこで自首するなりなんなり好きにしろ。運が良ければ生きてここから出られるさ」
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