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俺の後ろを歩くシルフが魔樹の枝を手で払いながら聞いてきた。ちなみに、俺の行く手を魔樹達が邪魔することはない。 「いや、初めて聞くな。たしかmemoryって思い出とか記憶って意味だよな」 「その通り。和訳もそのまんま『唯一の記憶』。噂じゃグランモスクが散歩してた時代よりももっと前に造られたものらしい」 素直に、へぇ、と思った。 10年間も白銀の茨に缶詰状態だからおれは時事ネタに多少疎いのだろう。多少で済めばいいが、なにせ10年間ほとんど人との交流がなかったから恥をかくのにもなれていない。 「まあ発見されたこと自体極秘だから、お前が知らなくてもむりねぇよ。トップシークレットって奴だ。この国はなんでもかんでも隠しすぎるな、ほんと」 ん? なんだ? 急に黙りこくって、気になるじゃないか。 「どうした?」 「いやぁ、なんでもねぇよ……今日会ったばかりの奴にぺちゃくちゃと全てを話す程お人よしじゃねぇんだ。それにお前も色々と詮索されたかねぇだろ? お互い身の上話はやめとこうぜ……おっと、それにしても邪魔だなこの枝」 シルフは白銀の茨にはいって初めて頭を枝にぶつけた。 こいつもなにかを背負っているらしい。 しつこいようだが、俺はこの10年間、それらしい人との交流の経験がない。そりゃあたまに町に生活必需品などのの買い物には行くが、顔を隠しているため世間話のひとつもできないのである。 だから、こんな時にどんな言葉を掛けてやればいいのかわからない。情けないが、人一人救うことができない出来そこないの英雄の息子だ。 とにもかくにも俺を魔王3世と知りつつ何もしない、何も尋ねてこない変わり者の仕事をとりあえずは手伝うことになった。
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