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★ ★ ★ 白銀の茨から小一時間歩くと海岸にぶつかる。極寒の大地で生きとし生ける種族は限られてしまう。雪リスというこの地では見慣れた小動物たちですら、住処から顔を出すことはない。 海岸沿いはそのすべてが絶壁であり、それらを作りだした波が激しく岩肌を叩き続けている。 俺は海岸にまで足を運んだのは初めてだ。急に視界が開けたことも手伝い、シルフに声を掛けられるまで気づかなかった。あれが、漂流観測所か。 「一応、王立だからな。無駄にでかいものを作っちまったんだよ」 シルフの言葉通り、漂流観測所は一目見てグッドラックでは最も大きい建物であることが分かる。一部突き出した崖全てを占領し、灯台の役割も兼ねているらしい建設物は顎を持ちあげなければてっぺんをみることができなかった。 よく見れば、崖の先端は岩ではなく鉄製の人工の崖になっていて、そこからこれまた鉄製のパイプが海岸沿いに崖に設置されている。おそらくあのパイプで漂流物を観測しているのだろう。 その姿はまるで、漂流観測所がここら一体の自然に寄生しているような印象を受けた。
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