【prologue】

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「不躾な訪問、申し訳ございません、恥ずかしながら道に迷ってしまい・・・恥を忍んで申し上げますが空腹と寒さでもう一歩も動くことが敵わないのです。もしよろしければさっさとあけやがれ!!」 俺は生い立ちの説明を中断し、ドアノブに手を掛けていた手を止める。 明らかに不審者と思われる。 しかし、昨今の詐欺数の増加による詐欺技術の多様化。それを完全に無視し、こちらの危機感を一瞬にして臨界点にまで引き上げてくれるとは。田舎を回る新手の偽善者か? 「おいこら!!」 これ以上ウチのドアくんに不満を訴えられると、ドアくんがもう駄目と言ってダウンしそうである。この冬、ドアなしで乗り切れる気がしない。 とにかくこの新手の不審者にノックと言う名の暴挙をやめさせなければ命にかかわる。 「何者だ?」 「おぉ!やはり人がオッケイオッケイ・・・・・神は私を見捨てはしなかった!私はしがない司祭にございます。先ほどから申しておりますようにこの寒空の下困り果てております。もしよろしければ慈悲を・・・《チッ、いるならさっさと出てこいよ》」 え、聞こえちゃってるよ・・・いいの? 確かに、確かにうちのドアは薄くて今年の冬こそもう少し厚めのものに建て替えようと思っていた。もちろん防寒のために。このような悪質なノイズに悩まされるとは。 本当に後悔先に立たずである。 「もし。聞こえていらっしゃるでしょうか?もしや私怪しまれておりますか。悲しい、神は私をお見捨てなさったのか。いや、これもまた私の普段の行いの賜物。仕方なしと受け入れることもまた信神(シンシン)の一環か・・・《神も仏もあったもんじゃねーな、どんだけ寒いとおもってんだ。この人でなしが》」 俺は信教や神には疎いが、信じる心ってなんですかと初めて切に思った。 しかしながら外の寒さは今や想像するに及ばない。 このままでは、この自称僧侶が凍死するのは火を見るより明らか。見殺しにすれば夢見が悪いというもの、 仕方ない。 「・・・今扉を開ける。悪いが二千歩程下がってくれるか」 「あほか!!一歩も動けねぇって言ってんだろうがぁ!・・・あ」
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