誘拐

2/2
前へ
/26ページ
次へ
今日は私の誕生日。 早生まれの私は皆に遅れて、やっと5歳になる。あと1年したら小学生。 今日は特に寒い日で、お母さんが私をもこもこにしてデパートへと買い物に来た。 「アキちゃん。お母さん下でお買い物してくるから、ここでちょっと待っててくれる?」 お母さんはデパート上部にあるレストランの一席に私を座らせ、レジの人に何か言った後、手を振りながら消えて行った。 私もお母さんに手を振り返し、窓の外を見ていると、レジにいたお姉さんが近寄ってくる。 「お母さん、お買い物があるから終わるまで待っていようね。これお母さんがアキちゃんにだって」 目の前に置かれたのは、滅多に食べることができないフルーツパフェ。 お行儀が悪いとお母さんがいたら言われるだろう。スプーンに巻かれた紙をビリビリに剥がし、椅子の上で膝立ちして、まずは大きな桃から口に入れた。 「おいしー!」 お姉さんはニコニコと私を見た後、レジに来たお客さんの対応に戻って行ってしまった。 ゆっくりゆっくり、大事に食べようと時間をかけていたせいか、残していたアイスクリームはドロッと形を変え、コーンフレークもふにゃふにゃになった。けれどまだお母さんは戻ってこない。 次第に不安になり、椅子から降りる。背の低い私を、さっきのお姉さんとは違うレジの人は気がつかない。店の前に立ち、きょろきょろ左右を交互に見る。けれどお母さんらしき人がエスカレーター、エレベーターから降りてくる感じはしない。 「お譲ちゃん、どうしたの?」 とうとう泣きそうになり、服の端をギュッと掴み我慢していると、学生服を着たお兄さんが声をかけてきた。 「お、かあさん。こない」 「じゃあ、僕が一緒に探してあげるよ」 私はとにかく不安で不安で、レストランの中で待っていれば、あの溶けたパフェを食べ続けておけばよかったのに、このお兄さんの伸ばす手を掴んだ。 「僕は山田太郎。君の名前は?」 「あき」 名前を言うと、お兄さんが嬉しそうに微笑み、手を握る力が強くなった気がした。 「アキちゃん」 「僕と、ずーっと一緒にいようね」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加