第4部 1.竜狩り

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   それらを呆然と見下ろしていたカラックは、目を上げて竜騎士に顔を向けた。その体からは、まだ炎色の粒がいくらか滴り落ちている。彼に近づこうとしたタニヤザールが数歩進みかけ、余りの熱さに足を止めた。  弟子が嫌がったところで言わずにいられない。――お前、どうして生きているのか?  しかしそれはカラックも、自身に対して同じだった。両手を上げて、そこから滴る光の粒を怪訝そうに見つめる。  ふと、聞き覚えのある声が耳に届いた。 「元締!」  庭園の森の陰から走ってくる調達人の見習いと親方。頭に包帯を巻いた若者が頬を紅潮させ、真っ直ぐにカラックの元に駆け寄ると、光滴の落ちるその手を取った。 「すごい! すごい! 竜騎士だったんですね! あの話、やっぱり本当だったんですね!」 「え……ああ」 カラックは赤面しつつもアシェルの握る手元を見下ろし、また顔を覗いた。「お前……何ともないのか?」 「え? 何がです?」    無邪気な青い目を向けた見習いだが、背後のエナムスはタニヤザールと同じく足を止めている。どうやら若者はカラックと同様、熱さを感じていないようであった。  その頃、庭園森に配備された三台目の重機兵の傍で、ゴンドバルの間者を捕縛したヴァーリックが一息ついていた。  最初の重砲が火を噴き、この世の終わりかと思った時、いきなり火柱を上げた爆発に巻き込まれた。混乱の中被害の確認をしていると、火球が飛んでくるのが見え、離れた木立に再び爆発をもたらした。その方角で二台目の重機兵と分かったが、反撃をしているのが竜と知って慄然とした。 ――こんな竜がいるのか! こんな竜を抑える事ができるのか!  目をやると、眩むばかりの光球となった竜が、上空に登りつつある。そこから続け様に発せられた白球が空中船と鐘楼に命中した時には、桁外れな破壊者の出現に言葉を失った。いくら給仕長がイディン一の竜騎士とは言え、あれをどうやって倒すと言うのだろう。  だが光球が下がり、繰り返し上がり出した激しい閃光に、竜と何かが闘っているのだと察せられる。そこで己のすべき使命を思い出し、すぐに三台目の重機兵鎮圧に向かったが、賊は重砲を用いる気力も消え失せたのか、たいした抵抗もなく衛兵達の手に下った。  重機兵の上部入り口に見張りを置き、間者を衛兵に任せると、ヴァーリックは馬を会場へと走らせた。  
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