第4部 2.怒りの日

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       *  *  * ――おねむの精霊がきたよ……  子どもが指差した先に、灰色の影と暖かそうな橙色の灯が近づいてきた。  カンテラを持ち、馬橇を引いていた偉丈夫。 ――ローティの親子か。すまん、橇(そり)は一杯なのだ。いや、子どもだけでも無理のようだ。乗っている貴族は、お前達が近寄る事さえ否む……悪く思うな。  そうして白魔の中に消えて行った。  この年、イディン中に飢饉が襲った。雪が遥か南の国にまで降り、北国ではすべてが凍りついた。しかも無理をして負った怪我で、筋切の生計(たつき)の道が断たれる。ただでさえ食物の無い中、役立たずのローティに施す者はいない。  小さなクルトは、彼の腕の中でやせ細った。  少しでも南へと山越えの最中、吹雪に見舞われ動けなくなった。 ――父ちゃん……歌って  細い声でせがむのを、一杯に抱きしめてそれに応えた。  暗くなり雪が止んだ。  風に流れる雲の間から、こぼれ出る星々。凍る幾千もの光が容赦なく身を貫いた。  それでも歌い続けた。力のすべてを注いで歌を紡いだ。腕の中の魂を満たすために。   東の空が白み、稜線が浮き上がってくる。黄金の光芒が彼らを照らした。  暁の赤と金の光の乱舞。  天が開けたその時、小さな体は息絶えた。  世界は、栄光の輝きの中にあった。  
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