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その名を何度も呼んだ。
必死に痩せた体をこすったが、一度凍えた体は元には戻らなかった。
長く抱きしめても、冷たさだけが胸の中に染み透ってきた。
突き抜けるような深い蒼空の下、雪を掻き分けて固くなった体を埋めた。
薄い色のまつ毛に、雪の結晶が微かに光ったのを覚えている。
外すべき耳飾りはない。フィノムの宿命だった。フィノム――永劫にイディンを彷徨い追われる者。
暁の美しさと遥かな蒼天の下にあっても、満ちる憐れみと祝福の外に永遠に置かれる。
生を許さない厳寒の中で、聳え立つ限りなく美しい白い峰々。
空の藍は底知れず、竜が彼方に飛んでいるのが見えた。
谷から上ってきた風に、目印として置いた小さな上着の裾がはためく。
この時――
それまで凍っていた心が一挙に溶け、その口から叫びがほとばしる。
持てるすべての怒りをこめた慟哭――
己を、人々を、生き物を、空を、山を、大地を、暁を、蒼天を、
そして――イディンを、竜を
――エナムスは呪った。
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