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自分の叫びで目覚めた。体中から汗が噴き出し、肩で大きく息を付いていた。 心に溢れた荒い想いが顔を歪ませ、噛み締められた顎が震える。
エナムスは、よろめきながら立ち上がると、竜を振り仰いだ。
「……なぜ、思い出させた」
竜が長い首を巡らせて、こちらを見下ろした。白く輝く眼を向け、喉奥の唸りが始まる。それを真正面から受けながら、エナムスは声を絞り出した。
「やっと奥底に収めたものを……どうして表に引き出すんだ」
アシェルが意識を取り戻した時には、筋切は腰の山刀を引き抜き、巨大な竜めがけて歩を進め始めていた。
「自分の事は分かっている。生も死も呪いで満ち……逃げることができないくらい」足の運びが次第に早くなり、山刀の切っ先を竜に向ける。「……それでも! 生きなければならず、生きるためには、抱えていられないこともある! それを!」
竜の双眸がエナムスの動きを追い、唸りと共にこぼれ落ちる白銀の煌めきが増す。
「親方! やめて!」
身を起こした若者は、必死にその後を追った。
筋切は今や全速力で相対し、その怒りを正面から思いの限りぶつけた。
「忘れなければ、どうして解けない呪いの中を生きていける!? なぜ来た!? なぜ俺の前に現れた!? 俺に何をさせたんだ!?」
叫びと共に山刀を握る腕が大きく後ろに引かれる。
「親方!!」
見習いが追いつく寸前、腕が一閃し、山刀が竜めがけて放たれた。
竜の凄まじい叫びが上がる。
その咆哮に眠りから覚めた竜騎士達と竜使いは、苦しそうに頭を揺らしている竜を振り仰いだ。真っ赤になった巨大なその目に、山刀が握りの元まで深々刺さっている。
残った眼が憤怒の光を湛えて筋切を捉えた。しかしエナムスは怯まなかった。怯む理由がなかった。生きるのに抱えきれない苦しみを負って、これ以上呪いの道を歩む力はないと思ったからだ。
彼は最期の絶望を、竜に注いだ。
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