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頭の帯を取り、エナムスの体に止血帯代わりに巻きつけたところで、タニヤザール達が戻ってきた。
「……どこかで見た光景だろ?」覗きこむ竜騎士に、カラックが口端を小さく上げる。が、深く息をついて荒れ狂う竜を仰いだ。「あれは、重砲か? いったい何が起きたんだ?」
「わからん……二台目の重機兵が破壊されてから大分経つし、その間イルグが手をこまねいていたとは思えんのだが……」タニヤザールは唸って、腕を組んだ。「業火の竜には無力だったが、夢見には十分威力があったようだな」
「……てことは、つまり?」
困惑する弟子に、竜騎士は眉をひそめた。
「竜が死ねば、その呪いがエルシャロンにかかる」銀の滴を火花のように撒き散らし、首を大きく降っている竜を見上げる。「イディン最大の呪いが、あらゆる死をもたらす」
そりゃ――と、言いかけて、カラックは口をつぐんだ。
西に傾いた半月が赤黒い塊に変わり、崩れた端から闇の空へ溶けて行く。星々も光芒を引いて流れ、一つ一つ確実に消えていった。やがて、竜の真上の彼方に夜空とは明らかに違う暗黒の滲みが現れる。それは禍々しい生き物のように、じわじわと四方を浸食し、全天を蝕んでいった。
タニヤザールは、ふと寄り添う気配で目を脇に落とした。彼の組んだ腕に、竜使いが震える手を掛けてくる。見上げる銀の目が恐怖に捉われているのを見て、彼はその頭巾に手を掛け、ゆっくりと捲り上げた。ほっそりとした黒い巻き毛の娘が、縋るような怯えた目を向けている。竜騎士がその肩を抱き寄せると、竜使いは顔を相手の胸に押しつけて啜り泣いた。
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