カカオの香に抱かれながら

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どうしてもこうしてもないだろう。恥ずかしいからに決まっている。いいのか悪いのかこの男の寝室は東に面していて朝日が嫌がおうでも当たる。夜でさえ明かりを嫌うと知っていながらこの男はからかうのだ。 「恥ずかしいからに決まってるじゃないですか」 「昨日したことは恥ずかしくないのかね」 「な……」 ありありとその状況を思い出して、理子は叫ぶことすら忘れていた。 口端を吊り上げて理子の長い髪をなでる。無骨な手ではあるが、心底優しい。一体何人の女がこの手に騙され包まれてきたのだろう。そして、理子もその一人だ。 「しかし、いやに早い目覚めだな」 完全に目が覚めた男――五十嵐は、理子の髪を弄びながら聞いた。 そうだ。あの音が聞こえたから起きたのではないか。 「ラッパの音が聞こえて……」 最早職業病だ。いまだ駐屯地暮らしをしている理子にとっては、ラッパが目覚ましであり、それより早くに起きれなかったというバロメーターなのだ。
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