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寒さも和らいだ、2月の下旬。
制服姿の少年と少女の二人が、アスファルトの道を歩いていた。
ふいに、少女は歩みを止める。
「猫じゃらし。」
そういうと、彼女は真横へ一直線に歩いた。
「えっちょっと、勝手にどこ行くの?」
少年は、突然歩きだす少女の腕を掴む。
「いや、だって永治。あっこに猫じゃらしが……。」
自分が行こうとしているところを指差し、腕を引っ張る彼を見て永治と呼んだ。
「夕架さんよぉ、猫じゃらしなんて珍しくないだろ?」
「珍しくないけど、猫じゃらし欲しい。」
夕架と呼ばれた少女は、子供みたいな口調で真面目な顔をしている。
「あんたは猫か! もうすぐ高校を卒業する身の者が、猫じゃらしなんて欲しがるなよ!」
「猫じゃない。永治、私猫じゃらし欲しい。」
彼女は、長い髪と同じ黒色の目で永治をじっと見た。
「……分かったよ。取ってきなよ、猫じゃらし。」
頑なに意思を曲げない夕架に、諦めて永治は手を離す。
「うん。」
永治の言葉にコクリと頷いて、夕架は歩いていった。
そして、猫じゃらしを一つ取ると、ニコニコと嬉しそうな顔をして永治の元へ戻ってくる。
永治は、夕架が戻ってくると同時に、再び前へ歩きだした。
「ねぇ夕架さん、その猫じゃらしどうするの?」
自分の隣を歩いている夕架に問い掛ける。
「しばらく遊んで、いらなくなったらポイする。」
永治の問いに、考えることもせず夕架は答えた。
「なっ……! あんだけ欲しがってたのに!?」
「人間ってそんなもの。」
「いや、夕架さんの性格は猫そのものだよ。」
猫じゃらしで遊んでいる彼女を見て、永治は苦笑した。
「じゃあ、ニャー。」
「何がじゃあなの!?」
そんな少し変り者の夕架に、永治はずっと振り回され続けるのであって……。
-fin-
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