六時間目の向こう

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この荒廃したコンクリートジャングルの中のメインストリートに、明らかに場違いな立派なテントが貼られていた。 赤を基調としたそれは、灰色に支配されたこの場では、輝かんばかりの存在感を放っていた。 もはや、虫の鳴き声も聞こえぬこの場所で、そのテントから発せられる音はより一層、テントの存在感を強める。 「・・・君・・・私が言った事が分かる・・・かね?」 その音・・・いや、声の主は、明らかに年季を帯びた男性の声だった。 「・・・はぁ。しかし、それが本当だとすると・・・?」 それに応える声は、まだ若々しく、この廃墟には不似合いとも言える、みずみずしい、生気を含んでいた。 精悍な顔立ちの、その青年と呼ぶに相応しい男の名は、宮脇一郎太といった。 一見すると、貧弱とも言えそうな体つきだが、過酷な生活の中で無駄な脂肪を落としたその体には、様々な無数の傷跡が残されていた。 「ああ・・・私の考えが正しければ、じきにこの地も灰燼に帰すだろう・・・」 宮脇と話しているこの老人は、小泉厳という。 顔に刻まれた沢山のシワと傷跡が、これまでの人生を物語っている。 だが、その目には年相応とは言い難いほどの威厳が保たれていた。 「しかし、何故こんなことに?」 宮脇は、厳老人に最も大切な質問をした。 世界がこのような状態に陥ってしまった原因について、だ。 宮脇は、自分達の話し声以外にも音が聞こえてきたことに気づいた。 大粒の水滴がテントを叩く音だ。 テントの入り口を少し開け、外に顔を覗かせると、大粒の雨が鼻をかすめた。 瞬く間に雨は激しくなり、縦に流れる川の如く地面をなぶる。 一郎太はテントの入り口を閉じ、再び老人と向き直った。 厳老人は、少しずつ口を開き始めた。 「・・・あれも、こんな風に雨が激しく降っている真夏の一日だった・・・」 老人の言葉で、物語の幕は開ける。 雨が地面を叩きつける音が、強くなる。
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