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翔はそっと体を離しながら俺を見つめて言った
「冬矢が捜しているみたいだから行くね」
「翔……」
「ん?」
「………いえ、先程冬矢を中庭で見ました」
「ありがとう」
そう言ってカバンを持ち、中庭に向かった
本当はそんな事を言いたかったのではない
本当は聞きたい事があった……
翔は冬矢をどう思っているのかと
冬矢の気持ちはあの慌てようを見ればすぐにわかる
俺はこのまま何も行動せずにただ見ているつもりか?
ふと視線を感じて振り返ると、そこには鏡に映った俺が居た
「………………」
もし、ここに映っている俺が意思をもっていたら間違いなく天使だろう
「リアルの私は悪魔も逃げ出してしまうかもしれませんね」
鏡に静かに語りかけ、薄暗く湿ったカビ臭い倉庫から明るい外に出た
外の明るさの中で透明に澄んだ風に吹かれた髪が緩やかに靡いた
さっき見た事が今は夢のようにも感じる
あれは本当に現実だったのだろうか……
軽いめまいを感じ、しばらく中庭のベンチに腰掛けながら寒々しい噴水をぼんやり見つめていた
「冬矢!」
「お前、捜したぞ」
「ごめんね」
「大丈夫か?また誰かに呼び出されたんじゃないだろうな」
「違うよ、ちょっと購買にノートを買いにね」
「そんな事は俺に言え」
「大丈夫、ノートぐらい自分で買いに行けるよ……でもありがとう、心配してくれて」
「あ、ああ」
また翔に先手を取られてしまったな
これじゃ、怒るに怒れない
苦笑しながら頭を撫でるしかなかった
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