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「寮に帰るぞ」 「うん、そうだ宿題教えて」 「わかった」 「俺、物理苦手」 「意外と楽しいのに」 「そんな事言うのは冬矢ぐらいだよ」 「そうか?」 「そうだよ」 寮までの短い道をいつものように二人で並んで歩く 「俺、この並木道好き」 「春には桜が満開だ」 「うん、それに見て」 「ん?」 「並木道の正面に夕陽が見えるんだ」 「ああ」 「綺麗……」 翔が居なければ気付かなかった風景 昔は何も考えずに歩いた道が今はこんなにも美しいと思える 夕陽に照らされた金色の髪が綺麗なオレンジ色に変わる 「見て、影がながーい」 「足が長いな」 「おりゃ!」 「蹴るな!」 「あははっ」 影遊びをしながら歩く夕暮れ ほんの少しだけ前を歩く翔の影に俺の手を重ねた まるで仲良く手を繋いでいるように見える影が、羨ましいと思ってしまった 「冬矢」 「ん?」 「夕食何かな?」 「お前はいつもそればかりだな」 「だって、毎日食事が出来る事が嬉しいから……それに一人じゃなくて二人で食べれる事が幸せ」 「翔……」 俺が翔を初めて見た場所はレストランの前だった 中をじっと見つめている翔を見て、おかしな奴だと思った 今時、食事が出来なくて空腹な奴なんて居ないと思っていたから しばらく退屈だったので見ていたら急にふらつき倒れそうになった翔を思わず抱き留めたのが初めての出会い 間近で見た翔が俺を見て笑った顔に俺は一瞬で恋に落ちた そして帰る所があっても帰れない翔を家に連れて帰った しばらく俺は学園にも行かず翔と一緒に生活していた
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