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久しぶりに楽しい食事を済ませ、部屋に戻りクローゼットを開いた 「これはもう必要ないな」 冬矢と同じヘアースタイルのウイッグを見つめながら苦笑した そしてほんの少しの出来心がわいてしまった 鏡を見つめ、ウイッグを被った 鏡に映るのは冬矢そのもの そっと部屋を出て、2階のバルコニーから月を見ていた 「冬矢、お風呂じゃなかったの?」 翔…… 「月を」 「今夜は半月だね」 翔は気付くだろうか? それとも 「月は悲しいね」 「悲しい?」 「太陽はさ、明るくて幸せな歌にもなるけど、月は綺麗なのに悲しい歌のイメージしかない」 「暗闇がそうさせているのかも」 「なのかな……」 やはり気付いていないのか? 「俺は月が好きだけど和海は?」 「えっ……」 「やだな、すぐに気付いたよ」 「見分けがつかないのでは?」 「見てるだけならわからないかもね……でも和海はいい匂いがするから」 「匂い?」 「冬矢は香水だけど和海はちょっと違うような……甘くてちょっと切ない香り」 「香水はつけていませんが」 「う~ん……あっ!」 「?」 「ヤベッ、まだ古典の宿題があったんだ」 「冬矢は?」 「寝てる」 「では、私の部屋で教えましょうか?」 「いいの?」 「はい」 「ありがとう、じゃプリント持って来る」 「部屋はわかりますか?」 「うん」 「ではまた後で」 「わかった」 やはり見分けがつかないと言うのは嘘か 俺達に気を使っていたのかも知れないな 「困りましたね」 冬矢と和解出来たのは嬉しいが、今度は二人で翔の取り合いをしてしまうかも知れない 翔は俺達をどう思っているのだろう 友人以上の関係を求めたらやはり逃げられてしまうのだろうか ウイッグを外し、バルコニーから外に投げ捨てて部屋に戻りお茶を入れて翔を待った
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