1787人が本棚に入れています
本棚に追加
久しぶりに楽しい食事を済ませ、部屋に戻りクローゼットを開いた
「これはもう必要ないな」
冬矢と同じヘアースタイルのウイッグを見つめながら苦笑した
そしてほんの少しの出来心がわいてしまった
鏡を見つめ、ウイッグを被った
鏡に映るのは冬矢そのもの
そっと部屋を出て、2階のバルコニーから月を見ていた
「冬矢、お風呂じゃなかったの?」
翔……
「月を」
「今夜は半月だね」
翔は気付くだろうか?
それとも
「月は悲しいね」
「悲しい?」
「太陽はさ、明るくて幸せな歌にもなるけど、月は綺麗なのに悲しい歌のイメージしかない」
「暗闇がそうさせているのかも」
「なのかな……」
やはり気付いていないのか?
「俺は月が好きだけど和海は?」
「えっ……」
「やだな、すぐに気付いたよ」
「見分けがつかないのでは?」
「見てるだけならわからないかもね……でも和海はいい匂いがするから」
「匂い?」
「冬矢は香水だけど和海はちょっと違うような……甘くてちょっと切ない香り」
「香水はつけていませんが」
「う~ん……あっ!」
「?」
「ヤベッ、まだ古典の宿題があったんだ」
「冬矢は?」
「寝てる」
「では、私の部屋で教えましょうか?」
「いいの?」
「はい」
「ありがとう、じゃプリント持って来る」
「部屋はわかりますか?」
「うん」
「ではまた後で」
「わかった」
やはり見分けがつかないと言うのは嘘か
俺達に気を使っていたのかも知れないな
「困りましたね」
冬矢と和解出来たのは嬉しいが、今度は二人で翔の取り合いをしてしまうかも知れない
翔は俺達をどう思っているのだろう
友人以上の関係を求めたらやはり逃げられてしまうのだろうか
ウイッグを外し、バルコニーから外に投げ捨てて部屋に戻りお茶を入れて翔を待った
最初のコメントを投稿しよう!