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ドアがそっと開いた 俺はいつものように眠ったふりをした 「眠っ……おやすみ冬矢」 翔はいつものように同じベットに入り俺の腕の中に潜り込んでそのまま眠ってしまった 一緒に寝る約束を一度も破らずに自分のベットではなく俺のベットで眠る翔 「薔薇の香り……」 翔の体からフワリと薔薇の香りがした 髪……ではない 体でもない 「唇……ジャム?」 よく見ると唇にジャムがついていた ジャムを食べたのか? いやきっと他の食べ方をしたのかも知れないが翔ならジャムごと食べてもおかしくはない 「虫歯になるぞ」 唇についたジャムをそっと舐めた 「この味……」 微かに覚えている 昔から食べていたジャムの味 和海はずっとこのジャムを? ふと、昔の俺達が甦る 台風で停電した部屋のベットの中 怖がる和海を抱きしめていた あれは中学2年の夏 雷が嫌いな和海は腕の中で震えていた 誘ったのは和海 乗ったのは俺 いけない事だとは思わなかった 俺達は温もりが欲しかった 罪の意識が芽生えたのはそれからずっと後の事だった そして俺は逃げた 報われない恋愛を続けていても和海を苦しめるだけだと自分の中で綺麗事を並べ立てながら 和海の気持ちに気付いて逃げ出したのは卑怯な俺 俺も愛していた 綺麗事を何度も打ち消そうとした でも先が見えない暗闇に和海を引き込んではいけないと思ったんだ 馬鹿だよな…… 罪を犯した後に漸く気付くなんて 動物なら罪の意識で苦しむ事などないのに 人間だから罪の意識が生まれる 罪とは何だろう 人を殺すのが罪なら 弟を愛するのも罪 「昔の話だな……」 しかし罪は消えない 翔が知ったらやはり消えてしまうだろうか 可愛い寝顔を見つめながら、そっと抱きしめて目を閉じた
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