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「和海はパン?ご飯?」
「朝はパンで」
「わかった、冬矢は飲み物で和海はフルーツお願い」
「ああ」
「わかりました」
翔が朝食を取りに行き、俺達も朝食の用意をした
「翔にかかれば会長も使われる訳か」
「はい」
「そう言えばお前」
「何か」
「まだあのジャムを?」
「ああ……たまたまですよ……翔に?」
「聞いたよ……あいつは隠し事や嘘がつけない奴だからな」
「成る程……薔薇のジャムに気付く距離にいつも居るのですね」
「香りが独特だからな……俺はちょっと苦手だったけどお前は好きだったよな……紅茶にも入れていた」
「………懐かしいですね」
「………だな」
だけどそれ以上話を続ける事はなかった
「お待たせ~!今朝はベーコンエッグとサラダとハッシュドポテトだよ」
「サンキュー、翔はミルクでよかったか?」
「うん、ありがとう」
「フルーツはわからなかったので」
「うはっ、全種類」
「多過ぎましたね」
「大丈夫、余裕」
「無理しないように」
「うん、じゃいただきます」
毎朝の風景に和海が加わった
まさかこんな日が来るとは思わなかった
ジャムか……
昔、和海の唇につけてそれを美味しそうに舐める姿を見るのが好きだった
「冬矢、どうしたの?」
「いや……クスッ、またケチャップがついてる」
「ん?」
当たり前のように指で拭い舐めた
「…………昔から冬矢は変わりませんね」
「そうか?」
確かに昔は同じ事を和海にもしていた
それを今思い出したくはなかった
「二人共、手と口が止まってるよ?」
「ああ」
「ですね」
きっと和海も同じ事を思い出していたのだろう
薔薇のジャムは禁断の味
子供心のちょっとした遊び
和海の白い肌に紅いジャムを落とし……
「ごちそうさま!二人共遅刻するよ」
翔の言葉で我に返り思わず和海から目を背けた
早く忘れてしまおう
忘れなければいけないんだ
そう思えば思う程、簡単には忘れられない二人の秘め事
過去を消し去れる消しゴムがあるのなら、全て消してしまいたいと隣で笑う翔を見つめながら考えてしまった
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