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香織は周囲を窺い、内緒話をするように声をひそめた。
「もう、止めたほうがいいよ。そういう変な習慣は。お金がもったいないし」
「変な習慣って……そうかな? うん、そうだな。そうかも知れない」
「お金だけじゃなくて精神衛生上もね。それと……」
「まだ、あるのか?」
「その薬指のリングは外したほうがいいよ。妻帯者に見られて女性から敬遠されちゃうわよ」
僕は左手を見た。
「これか? これはいいさ。今更、独身の振りをしたってしようがないだろ」
「だって実質は独身でしょ? もういいの?」
「いいもなにも……再婚なんて考えてないさ。お母さんとも約束したんだ。香織が社会人として独立するまでは再婚しないでねって言われたんだ」
「ふーん。お母さんがそんな事を……」
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