スローテキーラ

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「ええ。今回の人事で、あなたを呼んだのは高梨部長よ。部長は資材部時代は課長だったでしょ?」 「うん」 「あたし達をマニュアル作りに抜擢してくれたのも高梨さん。今回、あなたを本社に呼び戻して資材部の課長に据えたのも、実は高梨さん」 「そうなのか?」 「そうよ。判らなかった?」 「うん。そんなに深くは考えなかった。僕ぐらいの年齢の人材が欲しかったんだろうとしか」  僕はスロー・テキーラを飲み干した。 「それだけの理由だったら候補は本社内に、ごろごろ居るわよ」 「なるほど……それは、そうだ」 「むぉっほほほほ……お安くないのお。いや、結構、結構」  先客の老人が、わざとらしく耳に手を当てて、笑い声を立てた。  こちらの話を聞いていたのだ。 「王先生っ!」  マスターが制止すると、老人はマスターに向かって言った。 「王様の耳は?」  どこまでも、訳の解らない老人だった。 「マスター、王様の耳は?」 「ぞうさんの耳です」  マスターが、そう返すと、 「違うっ! 王様の耳は?」  老人は再び訊いた。  言葉遊びを始めたようだ。 「赤ちゃんの、お耳」  マスターも負けてはいない。
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