深慮遠謀

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 コートを互いに着せかけて僕等は店を後にした。  広い歩道の正面に時計台が見える。21時を回ったばかりだった。  バス停には列を為して駅の階段下まで人が並んでいる。 「香織ちゃんには、連絡しなくていいの?」  朱美は、僕の顔を覗き込みながら訊いて来た。 「うん。今年から大学近くのアパートで自活を始めたんだ。今日は友達の所に行くと言ってた。週一で顔を見せる事になってるから明日、来るつもりなんだろう」  横断歩道の信号が赤に変わったところで、僕は煙草を手に取った。 「じゃあ今日は遅くなっても平気ね。良かった」  朱美は嬉しそうな表情を浮かべて腕を組んで来た。  こんなに潤んだ瞳でまともに視られては男として今更、引く訳には行くまい。  彼女が身を寄せて来た時、かぐわしい香水と供に女性の体臭を感じた。 「部長はね」 「んっ?」 「高梨部長は、あたしの処遇に困ったんだと思うわ」 「困った? どうして?」 「あたしを女性管理職として課長に据える訳には行かないのよ。ウチのような業界には、そぐわないでしょ?」 「そうかな?」 「そうなのよ。ただの秘書なら私でなくても、もっと、お給料の安い若い女子社員で事が足りる。あたしを部長補佐に据えたのは高梨さんの温情なのよ」
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