Crescent scherzo-怪盗三重奏- 小咄･裏

キスの行く先

バレンタインなど興味も関心もなかった。

でも、なにかをする口実くらいにはなるかと考え直して。

柄にもなくチョコなど買ったのに……

「なにをやっているんだ、おれは」

今のおれといえば街の廃ビルの屋上で頭を抱えている。

手にしたままの渡し損ねたチョコを見てはため息しかでない。

顔を上げればビルの合間からアジトの屋敷が見えて、なんとなく視線をおろす。

しかし見下ろした景色に人気がないのも相まって気持ちは沈むばかりだ。

悪循環の感情に逃げたくもなるが、かといって動く気力もなくて少し低い柵に深く凭れた。