キスの行く先

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――ヴェルテ バレンタインだからと菓子を貰ったまでは良かった。 まぁ油断した俺も悪いか。 軽くお礼を言って終わりのつもりだったのに、ふと呼ばれてそちらを向くのと同時に腕を引かれて。 逃げる間もなく頬に口付けを許してしまった。 びっくりして窘めても、ロッサはけろりと笑っている。 「お返しはいただいたから~」 さらにはそう宣っていなくなるし。 どういう了見だか。 微かに残る感触ごと消すように頬を手の甲で拭う。 いたずら半分なのはわかっていても、さすがにいただけない。 誰かに見られなかっただけましか…… 誰かと曖昧にまとめつつも一番見られたくないあいつの顔を真っ先に思い浮かべ、俺は一人気まずくなって深く息を吐き出した。
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