風邪とりんご ver.1

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「それで、お前何握りしめてんだ?」 構わないと返された言葉に小さく笑って、視線をずらした俺はアーズリーが手に何かを持っているのに気付く。 「これは、そのだな……」 それにふと困ったようにまゆを寄せ持っている手を開いた。 出てきたのはりんごだが、それになんでそんな表情をするのか。 「食べさせてやれといわれたんだが、上手く剥く自信がないんだ」 しばらく口ごもったあと、ぼそぼそと続いた理由に俺はどう返事をするか迷う。 そういや、こいつろくに包丁使えないんだった。 押し付けたの誰だよという呟きは心の内にとどめ、ため息をついた俺は起き上がる。 自分で剥くつもりだったのだが、だめと言うので仕方なく剥き方を教えることで手をうっことになる。 しかし危なっかしい手つきに、また熱がぶり返しそうなほどひやひやさせられるのだった。
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