風邪とりんご ver.1

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――アーズリー 「……心臓に悪い」 「すまない」 りんご一つに大苦戦の末、剥き終わったおれにヴェルテががっくりとうなだれて呟くのに、おれはただ謝るしかできない。 出来上がった欠片はどれも歪で、もとのより実が小さくなってしまった。 逆に心配かけさせてしまったら意味がないじゃないか…… 「ところであんま居ると風邪うつるぞ?」 自分の不器用さにため息をついていたら、それでもその欠片を口にしながらのヴェルテに言われる。 「そう簡単にうつるものでもないだろう」 おれもりんごの入った皿に手を伸ばしながら、そうとだけ返した。 「それとも出て行った方がいいか?」 「いや。アズの好きにすればいいさ」 それから先刻の邪険にされたのを軽く揶揄するように続ければ、ふっと笑ったヴェルテにそっと頬を撫でられる。
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