⚠待ちぼうけ

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「……えーそれは今日たまたまってわけじゃないってことか?」 しばしの沈黙のあと、歯切れの悪い声で尋ねるこいつにおれは無言で頷き返す。 それにあーだの唸っていたかと思えばまた抱き寄せられる。 「そっか。なら俺も暇みて通えばよかったな」 ぽんぽんとあやすように背中を叩きながらこいつが呟いた言葉に、おれはそうだとだけ返す。 わかってくれればそれでお終いにしてもよかったのだが、それではおれの気持ちは収まらない。 だから少し躊躇ったが、やつの体を押し返す。 「これで許してやるなんて言ってない」 押す力に従って体を離しながらも、どうしたと聞き返すやつを見上げおれは言い切る。 「待った分埋め合わせしろと?」 「わかってるじゃないか」 それに首を傾げるのをおれは鼻で笑う。 なんだっていいのだ。とにかくこのあやふやな気持ちを宥めてくれるなら。 しかしやつはまたなにやら考え始める。 「じゃあさ…………」 それから何か思い付いたのか、ふっと笑ったやつは体を寄せて耳許でその思い付きを囁いてきた。
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