無自覚、自覚

7/15
前へ
/223ページ
次へ
でも、感情とはままならないものだと、おれは数日経た今になって思い知る。 知ってしまえば、それは明確な形を成し、さらにおれの思考を占めていく。 ましてや毎日のように顔を合わせる相手だからなお厄介だ。 会いたくないのにバーに入ると、つい癖であいつを探してしまうし。 あの赤髪はよく目立つ。加えて背もあるので、見失うことはまずない。 あ、いた。じゃなくて…… 必要以上に会いたくないのに、探して、見つけてしまえば気がつくと近づいている。 ああ、全くもってあのソーレの言うとおりだ。 おれはあいつが、ヴェルテが好きなんだ。 もう知らなかった頃には戻れない。 人混みを抜けながらそんなことを考える。 でも言うわけにはいかない。 それが辛い、なんて思ってみたりする。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加