寒い日には ver.1

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「手ぐらいだしたらどうだよ」 「手袋がない」 ちゃんと立ったのを確認して手を離し、ため息混じりに言えばもそもそとわがままな言い訳を言っている。 その可愛いのかかわいげのないのかよくわからないこいつに、俺はもう一度大きく息を吐く。 「しゃーない、とりあえず手を出せ」 うっすらと白くたなびく息が消えるのを待って手を差し出して告げた。 嫌だと言ったばかりなのにそれを要求する俺に、こいつは目を細めるが構わず無言で促す。 それでようやく俺の手に重ねられた手を取り、自分の左手にはめていた手袋を外し押し付ける。 「ぼさっとしてると冷えるぞ」 手のひらに握らされたものを不思議そうに眺めているこいつをそうせっつき、はめたのを見届けた俺は何も付けてない状態になった左手で同じく素のままのアーズリーの右手を包み込んだ。
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