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ボーっと歓楽街を彷徨っていた私に話しかけてきた彼は、白田栄だと自己紹介してきた。
その彼は、真面目にも思える微笑みで私を見た。
「じゃあさ。
呼び捨てしねぇから名前、教えて」
「私……、三井青子」
もちろん、三井は旧姓だ。
夫の姓は自分の名前じゃない気がして、何年たっても慣れなかった。
それに、もう使う気は少しもなかった。
「そっかぁ、“みい、せいこ”さんかぁ。
とりあえず話聞くからさ。
そしたら帰るって事で、な」
「え、話?」
「そ、話したら落ち着くとか言うだろ?
気までは晴れないだろうけどさ」
私は何故だか、彼の笑顔に親しみを感じ始めていた。
そして私達は、白田君の行きつけだという寂れきった薄暗いスナックに入った。
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